獅子に戯れる兎のように
「留空……」

 自身の苦い初体験が脳裏に過る。小暮の一言が、今でもトラウマになっている。

「望月さんは紳士だから。きっと留空が初めてだと知り、嬉しかったはず。嫌いになったりしない。大丈夫だよ」

 望月は小暮とは違う。
 留空を優しく受け止めて欲しい。これは私の願望。男性がみんな小暮みたいにデリカシーの欠片もないとは思いたくない。

「望月さんはきっとまたメールしてくれる。だから待っていればいい」

「……体だけの関係にはならないよね?望月さんは医師だし、きっとモテると思うんだ」

「そうね、高収入、高学歴、でも婚活パーティーに来ていたのよ。恋人がいたら来ないわ」

「……そうかな」

「それに、留空はとっても綺麗になった。きっと真剣に考えてくれるはず。でも一度関係を持ったからって、結婚とかすぐに意識しないほうがいいよ。お互いが必要なら、自然とそうなるから」

「わかってる。ただセフレにはなりたくないだけ」

 あのおとなしい留空の口から、セフレという言葉が飛び出し、私は驚いている。

 恋は人を変える。
 それは外見だけではない、心身共に成長させるのだ。

 私は小暮の言葉に傷付き、あれから成長どころか、恋に臆病となり一歩も進めない。

 恋も結婚も本音でいえばしたいけど、心と体がどこかで拒絶している。

「望月さんから聞いたんだけど、木崎さん柚葉の体調のこと心配してたって」

「木崎さんは内科医だからね。専門分野だもの」

「そうじゃないよ。木崎さん本気で心配してたみたい。柚葉は本当に付き合う気はないの?柚葉が木崎さんと付き合ってくれたら、私も心強いんだけど」

「ごめん……。木崎さんはいい人だけど、恋愛とか結婚とか考えられないの」

 ――ふと、脳裏に浮かんだ。

 日向との……キス……。
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