獅子に戯れる兎のように
 どうしてこんな時に、日向のことを思い出すのだろう。

「柚葉、好きな人がいるの?」

「……ぇっ?」

「顔が赤くなった。虹原さんのこともあったから、みんな心配していたんだよ」

 みんなでそんな話をしているんだ。私が留空に心配されているなんて、喜ぶべきか、悲しむべきか。複雑だな。

「その人と付き合ってるの?」

 留空の口調はもの静かでポワンとしている。だからつい本音が口から零れ落ちた。

「付き合ってないよ。でも告白されたんだ」

「告白?だからその人のことが気になってるんだ。嫌いならもう断ってるでしょう。気になっているのなら、それは好きなんだよ」

「や、やだ。留空ったら変なこと言わないで。誰が日向さんなんか……」

 思わず日向の名前を口走り、口を押さえたが後の祭りだ。

「えー!?日向さんなの?やだ、驚いた」

「……留空には敵わないな。美空や陽乃には内緒だよ」

「わかった。私のことも内緒ね」

「うん」

「日向さんが好きなら、木崎さんとは付き合えないね」

「好きかどうか、自分でもわからないの。同じ独身寮だし、食堂で平気な顔して同席するし、一方的に告白して、一方的に……。困惑してるんだ」

「でも……日向さんのことが気になってる。柚葉、素直になった方がいいよ。私ね、こんな性格だから恋人なんて一生出来ないと思ってたの。だから初めてが望月さんで良かったって思ってる。素敵な人と初体験出来た。幸せ過ぎて……怖いんだ」

「留空、望月さんのこと本当に好きなんだね。恋に時間は必要ないのかな。運命的な恋って本当にあるんだね」

 いつも私達の後ろを歩いていた留空。その留空がこんなに幸せそうに笑っている。

 羨ましいな。

 私より留空の方が精神的に何倍も大人だ。

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