獅子に戯れる兎のように
「友達ですか。でも私は結婚前提で雨宮さんとお付き合いしたい。そう思ってはダメでしょうか?」
窓の外で突風が吹き、缶ビールがコロンと倒れた。缶の中に僅かに残っていたビールがバルコニーに零れる。まるで過去を洗い流せと言わんばかりに……。
「木崎さんありがとうございます。こんな私で良ければ……」
「雨宮さん、本当ですか?嬉しいな。ありがとう」
私は……
何を言ってるの?
木崎に結婚前提のお付き合いをOKするなんて。
心の中に……
バルコニーに零れたビールのように、じわじわと木崎の言葉が滲んで広がっていく。
これでいいんだ……。
母がよく言っていた。
――『お見合いはね、そこから恋愛が始まるのよ。女は望まれてお嫁に行くのが一番いいの』
南原のバースデーパーティーで知り合った私達。これはお見合いと同じ。
過去は全て流す……。
過去は全て捨て去る……。
なのに……
何故だろう。
このあと、木崎とどんな話をしたのかすら覚えていない。
◇
――翌朝、缶ビールは風でバルコニーの隅に転がり、溢れていたビールは蒸発していた。
ビールの空き缶を片付け、食堂に向かう。日向はいつもの席で食事をしていた。
「おばちゃんおはようございます。和定食下さい」
「雨宮さんおはよう。和定食ね」
おばちゃんは慣れた手つきで、お味噌汁やご飯をよそう。今日は鯵の開きと卵焼きとカボチャのそぼろ煮。
私は迷うことなく日向の席に向かった。
「おはようございます。雨宮さん、どうぞ」
日向は爽やかな笑みを向け、席に座るように促した。この爽やかな微笑みの下に、本当の顔が潜んでいる。
「日向さんおはようございます。私、もう同席はしません」
日向が不思議そうに私を見ている。
「俺があの時の高校生だからですか?」
食堂には数人の社員が食事をしていた。その中に吉倉の姿もあった。
窓の外で突風が吹き、缶ビールがコロンと倒れた。缶の中に僅かに残っていたビールがバルコニーに零れる。まるで過去を洗い流せと言わんばかりに……。
「木崎さんありがとうございます。こんな私で良ければ……」
「雨宮さん、本当ですか?嬉しいな。ありがとう」
私は……
何を言ってるの?
木崎に結婚前提のお付き合いをOKするなんて。
心の中に……
バルコニーに零れたビールのように、じわじわと木崎の言葉が滲んで広がっていく。
これでいいんだ……。
母がよく言っていた。
――『お見合いはね、そこから恋愛が始まるのよ。女は望まれてお嫁に行くのが一番いいの』
南原のバースデーパーティーで知り合った私達。これはお見合いと同じ。
過去は全て流す……。
過去は全て捨て去る……。
なのに……
何故だろう。
このあと、木崎とどんな話をしたのかすら覚えていない。
◇
――翌朝、缶ビールは風でバルコニーの隅に転がり、溢れていたビールは蒸発していた。
ビールの空き缶を片付け、食堂に向かう。日向はいつもの席で食事をしていた。
「おばちゃんおはようございます。和定食下さい」
「雨宮さんおはよう。和定食ね」
おばちゃんは慣れた手つきで、お味噌汁やご飯をよそう。今日は鯵の開きと卵焼きとカボチャのそぼろ煮。
私は迷うことなく日向の席に向かった。
「おはようございます。雨宮さん、どうぞ」
日向は爽やかな笑みを向け、席に座るように促した。この爽やかな微笑みの下に、本当の顔が潜んでいる。
「日向さんおはようございます。私、もう同席はしません」
日向が不思議そうに私を見ている。
「俺があの時の高校生だからですか?」
食堂には数人の社員が食事をしていた。その中に吉倉の姿もあった。