獅子に戯れる兎のように
 ――仕事を終えた私は、迷わず望月に電話を掛けた。

 自分のしていることは、お節介なことだと十分わかっている。

 だけど、産むにしろ産まないにしろ、望月には男としての責任を取って欲しいと思ったから。

 女性は弱い立場だ。
 妊娠出産にはそれぞれの事情はある。だから手術することは肯定も否定もしないけど、当事者なのに部外者になって欲しくはない。

 午後八時、何度かコール音が響き、望月の声がした。私の携帯電話の番号は当然知らない。

『はい、望月ですが。失礼ですが、どちら様ですか?』

「こんばんは。突然すみません。私、本平留空の友人の雨宮です」

『花菜菱デパートの雨宮さんですか?』

「はい」

『雨宮さんから電話があるなんて……。本平さんに何か……?』

「はい。私がでしゃばることではないということは、重々わかっていますが、どうしても望月さんにお話したいことがあり電話しました」

『どのようなご用件でしょうか?』

「突然こんなことを言えば驚かれると思いますが、留空は妊娠しています。望月さんの負担になるからと、明日一人で病院に行き手術するつもりです」

『本平さんが……妊娠……』

「はい。お知らせしない方がいいのかとも思いましたが、やはり見て見ぬ振りは出来なくて……」

『雨宮さんありがとうございました。彼女が妊娠していることは知りませんでした。仕事が忙しくなかなか逢えなくて、彼女に不安な思いをさせてしまった……。その件は彼女とよく話し合います』

「はい。宜しくお願いします」

 私は望月との電話を切る。
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