獅子に戯れる兎のように
 自分のしたことが、留空の意に反することだとしたら……。

「私って、つくづくお節介だな」

 窓を開け、バルコニーに出る。寮の前にタクシーが止まり、日向と吉倉が降りた。

 二人は一緒だったんだ……。

 隠れる必要もないのに、思わず身を屈め室内へと戻る。

 窓を開けたまま、夜空を見上げた。

 木崎と交際すると決めたのに……。

 日向と吉倉の交際は、私には関係のないことなのに……。

 どうしてこんなに……
 胸が苦しいのかな。

 木崎は大人だし紳士だ。私には勿体無いくらいの人。だから、日向のことは全部忘れる……。

 ――留空は望月と話し合えたかな……。

 二人には幸せになって欲しいな……。

 そんなことを考えながら、夜空を見上げていると、隣の窓が開く音がした。

 微かに感じる人の気配。
 日向が……そこにいる。

 ドスンと床に腰を落とす音がし、煙草の煙がフワフワと夜風に流れる。

「なんで……俺じゃダメなのかな」

 小さな声だったが、確かにそう呟いた。

 その言葉が何を意味しているのか、私にはわからない。わからないのに……日向の声を聞いただけで、胸がキュンと鳴く。

 ベッドの上の携帯電話が鳴り、そーっと窓を閉めた。

 携帯電話には『留空』の文字。

「もしもし留空?」

『柚葉……』

 留空は言葉にならないくらい、号泣している。

 私……やっぱり余計なことを……。

「留空ごめんなさい。私……留空を苦しめるつもりはなかったの……。ただ望月さんに留空の気持ちを知っていて欲しくて……」

『……そうじゃないの。柚葉……ありがとう』

 ありがとう?
 それって……。
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