獅子に戯れる兎のように
「まっ、どーでもいいけど」

「どーでもいいなら、聞かないで」

 陽乃は美空をかわし、私に視線を向けた。

「女は望まれて嫁ぐのが一番幸せになれるって、私の母が言ってたわ。柚葉がそれ立証してよ」

「立証って……」

「木崎さんは柚葉が欲しくてたまらないの。柚葉にはあまりその気はなさそうだけど、お見合い結婚だと思えば、そんな結婚もありかもね」

 お見合い結婚か……。

 陽乃の母親も、私の母と同じようなことを話してるんだ。

「二番目に好きな人と結婚すれば、一番幸せになれるんだって」

 陽乃の言葉に……
 視線を上げると、偶然居合わせた日向と視線が重なった。

「私は一番好きな人と結婚したい。木崎さんのこと、好きになりたいと思ってる」

「柚葉、『好きになりたい』って言葉からして、もう違う気がするけどな」

 美空は少し呆れたように私を見た。

「お見合いだと考えたら、それもアリかもね」

 陽乃は余裕の笑みを浮かべたまま席を立つ。

「留空が退職する前に、四人で送別会しよう。ランチが三人になると思うと、ちょっと寂しいわね」

 陽乃はそう言い残し、私達に背を向けた。

「もし柚葉が退職したら、あの陽乃と二人きりでランチかと思うとユーツになる。毎日食堂で喧嘩してるかも。柚葉、まだ結婚しないでね」

 美空は皮肉まじりに笑っている。

「とか言いながら、美空が陽乃と一番仲良かったりしてね」

「マジでいってんの?私と陽乃は水と油だよ。いつまで経っても中和なんてしない。分離してるんだから」
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