獅子に戯れる兎のように
 分離か……。

 私と日向も……
 あの過去を中和なんて出来ない。

 高校生だった日向は……
 大学生だった私に強引にキスをした。

「柚葉、どうかした?」

「……ごめん。何でもない。留空、お腹が目立たないうちに挙式するみたいだよ。楽しみだね」

「相手の家族が揃って医者だなんて、普通の家庭に育った留空が上手くやっていけるかな。あの子おとなしい性格だし、望月さんはいい人だけど、ご両親はわからないからね」

「大丈夫だよ。留空ならきっと上手く合わせられる」

 私はどうだろう。
 木崎も望月と同じ代々医者の家系。彼自信も後継者を強く望んでいた。

 プレッシャーだな。
 私は平凡なサラリーマンの家庭に育った。

 父は躾には厳しかったけど、子育ては母に任せきりで、さほど教育熱心ではなかったから。

 ――定時で仕事を終えた私は、女子ロッカールームで携帯電話の着信を見る。

 携帯電話には木崎からLINEが入っていた。

【今夜逢えませんか?】

 今夜……。
 木崎と逢う予定はなかったから、今日の私服も地味な通勤着だ。

 どうしよう……。

 返信を迷っていると、再び着信音が鳴る。

【望月と本平さんの披露宴で、何かサプライズしたいと思っています。そのことで雨宮さんと相談がしたいのですが如何でしょうか。】

 留空の挙式披露宴……。

 友達として、私も何かサプライズしたい。

【わかりました。何処に伺えばいいですか?】

【銀座のプレミアム・ゴールドホテルのレストラン、胡蝶蘭でお待ちしています。】

【わかりました。今仕事が終わったので、これから銀座に向かいます。】
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