獅子に戯れる兎のように
 ロッカールームで着替えを済ませ、そのまま銀座に向かった。

 ――プレミアム・ゴールドホテル『胡蝶蘭』

 最上階にある中華料理店。店員に木崎の名を告げると、個室に案内された。

「木崎さん、こんばんは」

「雨宮さん、突然呼び出してすみません。どうぞ座って下さい。お料理はコースにしました。それで良かったでしょうか?」

「はい。お任せします」

「実は望月から結婚の話を聞いて、自分のことのように嬉しくて。雨宮さんと祝杯を上げたくなりました」

 いつもの落ち着いた雰囲気の木崎とは異なり、少し早口で興奮ぎみに話す木崎が、幼い子供のようで、また違う一面を垣間見た気がした。

 落ち着いた大人の顔。医師の顔。そして、友人を祝う無邪気な笑顔。

「しかもおめでただなんて。あの慎重な望月がスピード婚をするとは、本当に予想外でしたよ」

「望月さんって、女性には慎重なタイプなんですか?」

「結婚には慎重と言った方が正しいかな。だからなかなか縁談も纏まらなくて。きっと本平さんに一目惚れしたんでしょうね」

 あの望月が女性に慎重だったとは。望月も南原も木崎も、女性の憧れる医師という職業、自然と女性が群がるはず。

 しかも個人病院や総合病院の後継者達。私達を本気で結婚の対象として見ていたなんて、到底思えなかったから。

 食事をしながら、木崎は親しい仲間だけで、望月と留空の婚約パーティーを開きたいと提案した。

「婚約パーティーですか」

「はい。望月の学友には私から連絡します。花菜菱デパートのお仲間には雨宮さんが連絡していただけませんか?人数はそうだな。男女合わせて三十人ほどでどうでしょう」

「三十人……」

 半数としても十五人。
 留空はおとなしい性格だから、花菜菱デパートで親しい友人は、美空と陽乃と私くらいしか思い浮かばない。

「あの……。そんなには集まらないかも。もっと少人数でしませんか?合わせて十人か十五人くらいで」
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