獅子に戯れる兎のように
「もっと少人数ですか……。望月は交友関係が広いからな。これでもセーブしたつもりですが……。わかりました。ごく親しい友人だけでやりましょう。婚約パーティーとなると、どうしても規模は大きくなってしまうので、食事会ということでいかがですか?」

「それなら大丈夫かと。南原さんが主催したパーティーで一緒だった友人を誘います」

「そうですね。二人を結びつけたのは、南原のバースデーパーティーだから。そうしましょう。場所や日時はまた連絡します」

「はい。お任せします」

 今夜はいつになく会話が弾んだ。木崎も私も、留空の幸せのお裾分けとばかりに、会話を楽しんだ。

 そのせいか、お酒も進んだ。

 ゆっくり食事を楽しみ、私達は胡蝶蘭を出る。エレベーターに向かう途中、木崎が私の手を握った。

 手を繋いだだけで動揺するなんて、中学生みたいだな。

 強く握りしめられた手。
 階下から上がってくるエレベーター。
 目の前でドアが開く。

 そこには……
 日向と吉倉が仲良く立っていた。

「雨宮さん、こんばんは」

 先に口を開いたのは吉倉だった。エレベーターの『開』ボタンを押したまま、日向は私を見つめている。

 私というより、木崎と繋がれた手をじっと見ていた。

「日向さん……こんばんは」

「雨宮さんこんばんは」

「君は、あの時の……」

 木崎は日向と一度逢ったことがある。

「どうぞ」

 木崎と手を繋いだまま、私はエレベーターに乗り込む。

 日向はエレベーターから降りると思っていた。

「吉倉さん、ごめん。俺、急用思い出した。胡蝶蘭で金額の打ち合わせしてきて」

「えっ?日向さんは……?」

 最上階に吉倉を残し、エレベーターのドアが閉まった。
< 146 / 216 >

この作品をシェア

pagetop