獅子に戯れる兎のように
「どうしてかな……。彼と雨宮さんが一緒にいるのを見て、じっとしていられなかった……。雨宮さんの困惑した顔を見て、つい……。
 俺は吉倉さんとは付き合ってはいません。同期会の幹事をしているだけです」

「……離して。そんな理由で、私と木崎さんの交際を壊すなんて」

「すみません……。どんなになじられても、この気持ちを抑えることは出来ない。俺……ダメなんだ。やっぱり雨宮さんを忘れることは出来ない」

「……日向さん」

「不良だった俺が立ち直れたのは、あの時……雨宮さんと出逢ったからです」

「あの時……」

「両親が亡くなったあと、それでも強く生きてこれたのは、世間を見返してやりたいという気持ちと、雨宮さんにいつか胸を張って逢いたいと思ったから……」

「私のこと……いつから気付いてたの……」

「本社に配属された時から、気付いていました」

「……嘘、最初から知ってたなんて」

「雨宮さんこそ、いつから俺のこと気付いていたんですか?」

「わ、私は……バルコニーで『雨宮先生』って呼ばれた時に……」

「嘘が下手ですね。小伝馬町の公園で雨宮さんを見かけた時、俺ピンときたんだ。あの時、俺の素性を確かめに行ったんでしょう」

「……違うわ」

「あの周辺変わったでしょう。商業ビルになり、両親の店はもうない」

 日向は抱き締めていた手を緩め、真っ直ぐ視線を向けた。

「ラウンジで少し話をしませんか?両親のことを、聞いて欲しいんです」

 日向のご両親のことはずっと気になっていた。

「……そうね。こんなところで立ち話も……」

「行きましょう」
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