獅子に戯れる兎のように
 路地裏にあった居酒屋。店はあまり綺麗ではなく、小さな店だったけど、行列の出来る人気店だった。

 日向はラウンジで珈琲を二つオーダーし、過去に遡りあの日のことを話し始めた。

「あの日……、闇金の取り立て屋が、店にきたんです」

「闇金……」

 それは……
 想像を絶する内容だった。

 ◇◇

 ―五年前―

 ベッドに寝転がっていた日向は、階下で男の怒鳴り声とガチャンと何かが壊れる音に気付く。

 誰かが店内で暴れているようだった。

 ただ事ではないと理解するのに、数分時間を要する。

 階段を駆け降りると、人相の悪い男達が店の椅子やテーブルを壊し暴れていた。さっきまで楽しく酒を飲んでいた客は店の外から遠巻きに見ている。

『何やってんだよ!父ちゃん、母ちゃん大丈夫か!』

『はん?威勢のいいガキだな。ガキには用はねぇんだよ!引っ込んでな。俺達は借金の取り立てに来たまでだ』

『日向弘美《ひなたひろみ》はあんたの妹だよな。あんたは弘美の連帯保証人になってる。日向弘美は借金を踏み倒して行方不明なんだよ、元金と利息合わせて一千万、あんたが払ってくれるんだろうな』

 日向弘美は父親の実妹。
 小さなスタンドを経営している。

『一千万!?そんな大金はない』

『ない?あんたは連帯保証人だろ、あんたには支払う義務があるんだよ!』

『どうかこの店で暴れるのだけは勘弁を……。お願いします。弘美の借金なら毎月少しずつ返済しますから』

 店の床に額を擦り付け、取り立て屋に土下座する父親を見て怒りが沸き起こる。

 苦労してやっとここまで築き上げた店なのに……。

 叔母の連帯保証人になったばっかりに……。

『父ちゃんも母ちゃんも悪くない!うおぉー!!』

 日向は奴らに殴りかかっていた。相手は質の悪い闇金融の取り立て屋だ。何度拳を振り上げても、奴らにあたるわけがない。

 日向はサンドバッグみたいに腹部をボコボコに殴られ体中を蹴られた。母親はそんな日向を捨て身で庇う。

 次の瞬間、男が振り上げた足が母親の体にあたり、離れはカウンターの角に頭をぶつけ、その反動で日向の体にドスンと覆い被さった。

 母親の後頭部からは……
 トクトクと脈打つように血が流れ出す。
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