獅子に戯れる兎のように
 日向は部屋に入ると私にキスをした。

 優しいキスが、痺れるような激しいキスへと変わる……。

 初体験の辛いトラウマが、一瞬脳裏を過ったが、日向のキスはそれを考える隙を与えないくらい、正常な思考回路を壊していく。

 逞しい手が洋服を脱がし、ベッドに身を沈める。日向は私の目の前でスーツの上着を脱ぎ、右手でネクタイを緩めシャツを脱ぎ捨てた。

 逞しい上半身が露になり、思わず視線を逸らした。

「目を逸らせないで。ちゃんと俺を見て下さい」

「……日向さん。私、やっぱり……帰」

 『……帰ります』その言葉を封じるように、日向は唇を塞いだ。太い指は私の頬、私の首筋、そして……胸の膨らみを滑るように下りていく。

 こんな感覚は初めてだった。恐怖心というよりは、日向に触れられると指先までもが敏感になっていく。キスの嵐にのみ込まれ上手く呼吸出来なくて、自然と吐息が漏れた。

 日向の指と舌に弄ばれ、体は大きくうねる。日向は私の掌を掴み、指を絡ませた。

 自分の声に耳を塞ぎたくなる。

 これはお酒のせいだ……。
 アルコールのせいにしなければ、今の自分を肯定出来ない。

 自分を閉じ込めていた固い殻が、日向の腕の中で砕け散った。日向は私を見つめたまま激しく体を揺らした。

 自分自身をコントロール出来なくなるほど上り詰め、目の前が白く霞む……。と、同時に、ほんの一瞬意識を手放した。

 ――ぐったりしている私に、日向は優しいキスを落とした。

「ごめん……。大丈夫ですか?」

「……意地悪ね」

 今まで経験したことのない余韻に体は火照る……。
 羞恥心から日向に背を向けた。

「先にシャワー使って下さい」

「……こっちを見ないで」

 日向よりも、私は年上だ……。
 こんなこと慣れていないのに、さも場慣れしているような態度で、平静を装いベッドから降りた。
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