獅子に戯れる兎のように
「俺とのことがあったからですか?」

「……会議室で変なこと言わないで」

「だったら、どこで言えばいいんだよ。女子寮に行けば話をしてくれるんですか」

「日向さん……。お願いだからやめて。誰かに聞かれたら私もあなたもただではすまないわ」

「俺はそんなことどうだっていいんだ」

 壁に追い込まれ、日向は私を腕で封じた。

「ここは職場です。あなたのしていることはセク……」

 日向の唇が……
 私の言葉を封じた。

 唇の感触に、体に熱い電流が流れる。

「お願い……もうこれ以上困らせないで」

「寮を出る前に、ちゃんと話がしたい。二人だけで逢ってくれますね」

「……わかったわ。だから離して」

 日向から逃れるために、日向の条件をのみ、私は逃げるように会議室を出る。

 会議室を出ると、廊下には山川の姿……。

「雨宮さんいらっしゃったんですか」

「山川さんどうしたの?」

「課長に会議室のセッティングを手伝うように言われたんです」

「そう。セッティングは日向さんともうしたからいいわ」

「日向さんと……ですか?雨宮さん、口紅とれてますよ。ロッカールームで直した方がいいかも」

「……えっ」

 山川に指摘され、思わず口元を隠す。山川に見抜かれているようで、焦りから顔が火照る。

「昼休みに化粧直す時間がなかったから……。ちょっとロッカールームで化粧直してきてもいいかな」

「はい」

 山川に背を向け、ドキドキと鳴る鼓動に急かされるように、ロッカールームに向かった。
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