獅子に戯れる兎のように
「もしかして、私と虹原さんのこと勘繰ってるの?虹原さんは何て言ってるの?」

「彼に雨宮さんと日向さんの噂があることを話したら、とても動揺してました。でもそれは同期だから気になるだけで、付き合ってはいないと言ってます」

「そう。私も同期だから、虹原さんが幸せになることを願ってる。私と虹原さんの間には何もないよ。でも山川さんが気になるなら、私は挙式披露宴には参列しないわ」

 私は山川を見つめ微笑む。
 虹原とのことはもう終わったこと。でも本音を言えば、挙式披露宴には参列したくはない。

「私は雨宮さんのこと、よき先輩として尊敬しています。雨宮さんの言葉を信じます。是非参列して下さい」

「喜んで出席させていただきます」

 社会人になり、早五年。
 私もこんな嘘がつける大人になってしまった。

 でも虹原と交際はしていたが、肉体関係がなかったことは偽りじゃない。

 私と虹原は真の恋人にはなれなかった。虹原が『交際していない』と山川に言い続けるなら、私も同じように嘘をつき続ける。

 真実を知ることが、幸せとは限らないから。

 ◇

 ―昼時間―

 父に電話すると、無事に引っ越しが終わったとのことだった。

 安堵する反面、今日から私の帰る場所は緑ヶ丘のマンションなのだと、自分に言い聞かせた。
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