獅子に戯れる兎のように
「柚葉、引っ越し決まったの?」

「今日済ませたよ」

「まじ?」

 驚きを隠せない美空。
 陽乃も「あらら」と声を漏らす。

 留空は悪阻が酷く、結局退職まで残っていた有給休暇を消化し休むことになった。

「柚葉不在のまま引っ越ししたの?」

「うん。荷物も少ないし、両親のマンションに引っ越すから。業者の立ち会いは両親がしてくれたの」

「結局、親に頼ったわけだ」

「陽乃、自立出来てないって言いたいんでしょう。否定しないよ。その通りだもの」

「二十七歳にもなると、開き直るから怖いね」

 陽乃は冗談混じりに皮肉り、クスクスと笑ってる。

「立ち会うと寂しくなるでしょう。入社してからずっと寮だったんだから」

「お局様が退散し、みんな羽を伸ばせるね」

「やだ 、陽乃と一緒にしないで」

「そうだよ、陽乃は秘書課のお局様だからね。いや、美魔女かな」

 美空はケラケラと笑った。

 陽乃はそんな言葉も、全く気にしない。

「美空、それをいうなら秘書課のマドンナでしょう」

「はいはい。これだから女の開き直りは怖い」

「美空だって同じ女でしょう。それとももう女はやめたのかしら?」

「そうだね……。当分、シてないし」

「やだ、ここは食堂だよ。二人ともいい加減にして」

 美空と陽乃は顔を見合せる。

「柚葉はそうやって、いつもいい子ぶるんだから。その殻を破らないと、いつまで経っても結婚出来ないよ」

 それはお互い様だ。
 それよりも本題に入らないと。

「あのね、留空のことなんだけど。望月さんの友人と留空の友人を呼んで会食することになったの。来週の木曜日夜六時半なんだけど、二人とも大丈夫だよね?」

「留空の?柚葉それ誰から連絡あったの?もしかして……木崎さん?あなた達また付き合ってるの?」
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