獅子に戯れる兎のように
「違うよ。付き合っていた頃に、サプライズしたいと話していたの。結局、留空の体調もあるし、サプライズにはならなかったけど、少人数ならいいって」

「二人の了承ずみってわけだ。私はいいよ。予定空けとく。美空も行くわよね?どうせ予定ないでしょう」

「予定なくて悪かったわね。留空のお祝いでしょう。もちろん行くよ。本当は四人だけが気楽でよかったけど。柚葉は気まずくないの?木崎さんも来るんでしょう」

「木崎さん、幹事引き受けてくれたから……。もう私達は大丈夫、友達に戻ったから。もともと……何もなかったし」

「淡い恋だったなんて、中学生みたいなこと言わないでよ。私達は大人女子なんだからね」

「陽乃、わかってるよ」

 もし木崎と逢っても、もう揺らいだりしない。

 ――仕事を終えた私は、寮のある汐留ではなく、緑ヶ丘のマンションに戻る。

 そこは実家ではあるけど、新たな自分の居場所となるかどうかは、不安も残る。

「ただいま」

 玄関のドアを開けると、母が出迎えてくれた。

「柚葉お帰りなさい」

 明かりのついた部屋。
 家族に『お帰りなさい』と言われる生活が、今日から始まるんだ。

「食事出来てるわよ。荷物は部屋に入れてあるから。荷ほどきは自分でしてね。一人で無理なものは、父さんが手伝うって。不要なものは言われた通り処分したけど本当にそれで良かったのかな?」

「うん。今日はありがとう」

 リビングに入ると、父がソファーに座っていた。

「ただいま。お父さん、今日はありがとう」

「お帰り。食堂のおばさんにも挨拶して帰ったからな」

「お世話になりました。今日から宜しくお願いします」

「やあね、出戻りした娘みたいね」

 母はクスクス笑っている。
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