獅子に戯れる兎のように
 確かに、出戻りだ。
 一度は自立すると家を出た身。

 たまに帰るだけならいいけど、毎日一緒に暮らすとなると、正直気まずい部分もある。

 でも最終的に頼れるものは、両親しかいないのも現実だ。

 いざとなると有り難い。

「部屋で着替えてくるね」

 六畳の洋間、クローゼットの横には洋服や小物が入った段ボール箱。

 持って帰った家具や電化製品が雑然と置かれている。

 私服とマジックで書いた段ボール箱を開け、部屋着を取り出し着替える。

 ドアが開き、花織が顔を覗かせた。

「お姉ちゃんお帰り」

「ただいま。今日から宜しくね」

 花織が部屋に乱入し、ドアを閉めた。

「お姉ちゃんが帰ってくれて助かった。最近お父さんもお母さんも口煩くて、彼とお泊まりも出来ないんだから」

「お、お泊まり!?」

「シーッ、声が大きいよ。姉妹協定結ばない?私も協力するから、お姉ちゃんも協力してね」

「花織、姉妹協定って……。大学に入った早々、勉強もしないでそんなことしてるの?」

「そんなことって、恋人同士なら自然の成り行きでしょう。まさかお姉ちゃん未経験じゃないよね」

「ちが……」

『違うよ』といいそうになり、思わず口を結ぶ。

「やだ、何照れてるの?その歳で未経験だなんて言われたら、その方が引くし」

「あっそ。帰る早々、こんな話になるとは思わなかったよ」

 呆れてこれ以上、物も言えない。

「とにかく姉妹協定成立ということで。お母さんがご飯だって。張り切ってちらし寿司作ってるよ。早く来なさいって」

「はいはい」

 花織の嘘に付き合うつもりもないが、歳の離れた妹が、いつの間にかオトナになっていたことに、正直驚きを隠せない。
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