獅子に戯れる兎のように
「柚葉までそんなことを。柚葉なら父さんも母さんもそんなに目くじら立てないよ」

 母は遠回しに、私に恋人がいるかどうか、探りを入れている。

「残念ながら、私はいません。お父さん、はいビール」

 母のお小言を聞き流し、父のグラスにお酌する。

「母さん、柚葉は今日帰ったばかりだ。今日くらい静かに食事をさせてやれ」

「あら、父さんだっていつも話してるじゃありませんか。私だけが口煩いみたいに。いつだって母親は損な役回りね」

 少し不機嫌な母。初日からこれでは先が思いやられる。

「お母さんも、ほらビール飲んで。今日は引っ越しも手伝ってくれて、こんなにご馳走も用意してくれて、私、感謝してるのよ。私、きっとまた我が儘ばかり言うと思うけど、宜しくお願いします。今日は本当にお疲れ様でした。ありがとう」

「柚葉……」

 私の言葉に、母がグスンと鼻を鳴らした。

「やだな、急にどうしたの」

「柚葉が嬉しいこと言ってくれるから。今日は遠慮なく飲ませていただくわ」

「私だけジュースだなんて。本当に盛り上がらない」

 花織は文句を言いながらも、手元にある携帯電話で誰かとLINEをしている。

「花織、食事中にケータイは触るな」

 父にピシャリと叱られ、花織は渋々手を止めた。

「既読スルーしたら、大変なんだよ。お父さん何も知らないんだから。ねぇお姉ちゃん」

 私に助けを求めないでよ。

「だったら、食事中に読まなければいいだろう」

「はいはい」

 このわずらわしさに、すぐに慣れるのかな。気楽な寮生活がすでに懐かしい。

 日向は寮で誰と夕食をとっているのだろうか……。

 食事をしながら、ふと日向のことを考えている自分に気付く。
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