獅子に戯れる兎のように
 家族団らんしている時に、日向のことを考えている私は、どうかしている。

 ◇

 ―翌週木曜日―

 部屋もすっかり片付き、家族との生活にも慣れた。

 今日は店休日、渋谷マリエージュで留空と望月のお祝いの会。

 いつもより少しお洒落して、出掛ける準備をする。

「お姉ちゃん、今日は気合い入ってるね。デート?」

「違うわ。友達が入籍したからそのお祝いパーティー」

「とかなんとか言っちゃって。お泊まりするなら、協力するよ」

「何言ってんの。バカなことばかり言ってないで、少しは勉強しなさい」

「はいはい」

 花織はプーッと口を尖らせ、部屋を出て行く。

 木崎と逢うのは、あの日以来。緊張しないと言えば、嘘になる。

 ―渋谷マリエージュ―

 午後六時過ぎ。

 集合時間よりも少し早めに来店した私は、店の入り口で木崎と出くわす。

「こんばんは。お久しぶりです」

「雨宮さん、こんばんは。随分早いですね。時間、間違えて伝えてしまったかな」

「いえ、何かお手伝いすることがあればと思って、少し早く来ました」

「ありがとうございます。実は個室を借りていて、店長に許可を頂いているので、少し飾り付けをしようかと思っています」

 木崎の両手には紙袋が握られていて。中にはメッセージボードや飾り付けの生花等が入っていた。

「木崎さんがお一人で用意されたのですか?」

「一応幹事なので。みんなの気持ちが明るくなればと思いましてね。不器用なので上手く作れませんでしたけど」

 木崎は照れ臭そうに笑った。木崎の人柄が滲み出る、優しい笑顔だ。
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