獅子に戯れる兎のように
 私は木崎と店内に入り、個室に生花やメッセージボードを飾る。

 ボードには望月と留空の出逢いとなったパーティーでの写真が飾られていた。

 いつもよりドレスアップし、緊張している留空と、その隣で笑っている望月。

 ボードには達筆で、『おめでとう』の文字。望月の友人からは、すでにメッセージが寄せられていた。

「雨宮さんも一言お祝いメッセージをお願いします」

 マジックを渡され、一瞬戸惑ったが、ハートマークの中に『末永くお幸せに』と、書き込んだ。

「今日、雨宮さんは来てくれないと思っていました」

「木崎さん……」

「彼は私よりも若いし、好青年だ。雨宮さんが彼に惹かれるのも無理はありませんね。……すみません、こんなことを言うなんて、往生際が悪すぎますね」

「私こそ、木崎さんに失礼の数々を……。本当に申し訳ありませんでした」

「もうこの話はやめましょう。これからは友人の一人としてお付き合いいただければ、それで十分です。そろそろみんなが来る時間。店の入り口で出迎えましょうか」

「はい」

 木崎と個室を出て、マリエージュの入り口で友人を出迎える。

 ごく親しい者だけの食事会。望月の友人は木崎含め五人、留空の友人は私と陽乃と美空。本日の主役を合わせ、合計十人。

 次々と来店する望月の友人は、大学時代の友人で全員医師だ。

「柚葉、早かったんだね。LINEしたんだよ。木崎さんこんばんは。お久しぶりです」

 陽乃は木崎にチラッと視線を向け、笑みを浮かべる。

 私と木崎の関係を、勘繰っている顔だ。

「あとは望月と留空さんだけですね。皆さんは個室でお待ち下さい。主役の二人は私と雨宮さんでお迎えします」

 陽乃は意味深な笑みを浮かべ、美空とともに店内に入った。
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