獅子に戯れる兎のように
【19】賢い獅子は外堀から埋める
 暫くして望月と留空が仲良く来店した。留空は特別着飾った風でもなく、眼鏡をかけ、ゆったりとした淡い紺色のワンピースを着ている。

「木崎、雨宮さん、本日は私達のために、ありがとうございます」

 望月と留空は、笑顔で私達に頭を下げた。

「留空、悪阻《つわり》は大丈夫?」

「うん。少し落ち着いてきた」

「そう。良かった。陽乃と美空も来てるよ。望月さんもこちらへどうぞ」

「ありがとう。木崎と雨宮さんは、また……」

『また、付き合い始めたのか?』と問いたげな望月を、木崎が笑顔で制する。

「望月、私と雨宮さんは友人だよ。その話は……」

「そうか、雨宮さん大変失礼しました。木崎はいつも『いい人』で終わってしまうんです。本当に《《いいヤツ》》なんだけどね」

「望月、爽やかな顔して、言うことがキツいな」

「ごめん、ごめん」

 木崎と望月は笑いながら、肩を並べる。

 私と留空も顔を見合せ笑った。

 個室のドアを開けると、みんなが望月と留空を拍手で迎えた。

「おめでとう」の大合唱に、留空は恥ずかしそうに俯いた。

 おとなしい性格の留空。
 南原主宰のパーティーで、一日だけ変身し、誰もが目を見張る美しい女性へと変貌を遂げ、男性に取り囲まれた。

 まるで魔法を掛けられたシンデレラのように、あの日の留空は本当に綺麗だった。

 望月も初めは留空の美しさに魅了されたのだろう。けれど本来の留空の姿を目の当たりにしても、望月の気持ちは変わることはなかった。

「柚葉、そんなに羨ましそうな顔しないの。大きな魚を手放したのは、柚葉なんだからね」

「陽乃、そんなんじゃないってば。留空が幸せそうで、嬉しいだけ」
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