獅子に戯れる兎のように
「だよね、留空が本当にシンデレラになっちゃうなんて、想定外だったよ。王子様は超セレブだし」

 陽乃はそう言いながら、嬉しそうに口元を緩ませた。

 お祝いの会は、ごく親しい友人だけの集まりとあって、和気藹々と時間は流れた。

 個室に並ぶバイキング形式のお料理は、和食、フレンチ、イタリアンと数十種類も並び、みんなのお酒も進む。

 時刻は八時半、留空の体調も考慮し二次会はなくし、そろそろお開きの時間だ。私は席を中座し、化粧室に向かう。

 化粧室の鏡に映る私。
 アルコールに酔い、チークをつけたように頬はほんのり赤い。

 化粧室で口紅を直しドアを開けた。男性用のドアも同時に開き、思わず顔を伏せる。

「……雨宮さん?」

 聞き覚えのある声に、思わず視線を上げた。

「日向さん……。どうしてここに?」

「花菜菱デパートの同期会です。雨宮さんは……?」

「私は本平さんの祝いの会を、親しい友人と……」

「そうですか。店内で見掛けなかったから驚きました」

「個室を借りてるの。失礼します……」

 立ち去ろうとしたら、日向に手首を掴まれた。

「待ってます。同期会のあと、新宿駅前のカフェ、diaryで……」

「日向さん……。私は行かないわ」

「雨宮さんが来てくれるまで、ずっと……待ってます」

 日向は私の目を真っ直ぐ見つめた。

 ――トクン……トクン……

 鼓動が少しずつ速まる。

 ――トクン……トクン……

 どうしてこんなに……
 胸が苦しいの。
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