獅子に戯れる兎のように
 父はムスッとしたままスリッパを履く。私は日向にお客様用のスリッパを差し出し、小声で耳打ちをする。

「何を考えてるのか知らないけど、変なこと言わないでね」

「変なこと?」

 日向は首を傾げ、不敵な笑みを浮かべた。

「お姉ちゃんお帰りなさい。はじめまして、妹の花織です」

「こんばんは。はじめまして、花菜菱デパートの……」

「彼は同じデパートの後輩なの」

 日向の言葉を遮り、花織を睨み付ける。

「花織は部屋に入ってなさい」

「えー……、そうなの?つまんないな」

「妹さんにも一緒に話を聞いてもらえたら……」

「そんな必要ありません。日向さんもお茶を飲んだら帰って下さいね」

 なんでこうなっちゃうの。

 ニヤニヤしている花織を部屋に閉じ込め、私と日向はリビングに向かう。

 母はキッチンで珈琲の用意をしていた。

「柚葉、ビールの方が良かったかな?父さんが珈琲でいいっていうから……」

「珈琲でいいよ。日向さんも寮に戻らないといけないし」

「あら、寮にお住まいなの?柚葉と一緒だったのね。ご実家はどちらですか?」

 母の余計な一言に、日向の両親のことが頭を過る。

「お母さん、立ち入った話は……」

「そうね。ごめんなさい。日向さん、さぁどうぞ。お座り下さい」

 日向は父と向かい合ってソファーに座る。母はテーブルに珈琲を置き、父の隣に座った。

 私はどこに座ればいいのかわからず、一人掛けのソファーに腰を降ろす。
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