獅子に戯れる兎のように
【20】獅子と兎の秘密のオフィスラブ
「……日向さんと交際するつもりです。でも結婚前提とか思わないで欲しい。日向さんは私より四歳も年下だし、結婚とか考えられないから」

 両親は顔を見合せ、少し安堵の表情をした。

「日向さん、どうやらあなたの片想いは柚葉の気持ちを動かしたようですね。二十七歳にもなり、浮いた話もないなんて、妻と心配していたところです。正直、丸福信用金庫の部下とのお見合いも考えていました」

「やだ、お父さんそんなこと考えていたの?私はお見合いなんてしませんからね」

「日向さんと付き合うなら、真剣に付き合うんだな。父さんも母さんも彼が年下だからと交際に反対するつもりはないよ」

「……それはどうも。日向さん、もう帰らないと。寮の門限があるでしょう」

 これ以上、話を引き伸ばすわけにはいかず、日向をせかせる。門限なんて、口から出任せだ。

「門限?あっ……はい。今夜は突然お邪魔し、申し訳ありませんでした。ご両親とお逢いできて嬉しかったです。ありがとうございました」

「突然のことで驚きましたが、娘のことを宜しくお願いします」

 父の言葉は、私にはとても重く感じた。

「日向さん、寮での生活は不便でしょう。今度ゆっくり食事にでもいらして下さいね」

「お気遣いありがとうございます。失礼します」

 両親と挨拶を交わす日向の背中を押し、玄関から押し出す。

「日向さんを下まで送ってきます」

 玄関のドアを閉め、ホッと胸を撫で下ろす。

「雨宮さんありがとうございます」

「えっ?勘違いしないで。両親の手前、嘘をついたまで。あなたと付き合うつもりはないから」

 エレベーターに二人で乗り込み、一階のボタンを押す。

「そうですよね。わかっていました」

「日向さん、どういうつもりなの?両親にあんなことを言うなんて狡い」

「俺は自分の気持ちを正直に話したまで。ご両親に嘘はついていません。嘘をついたのは雨宮さんです」
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