獅子に戯れる兎のように
「一緒にお参りさせて下さい」

「……はい」

 彼女が俺の背中を押してくれた。

 過去から逃避していた……
 俺の背中を……。

 ◇

 ―翌週、木曜日―

 花菜菱デパート店休日。

 俺はレンタカーを借り、ハンドルを握る。助手席には彼女が座っている。

 彼女の手には菊と百合の花束。

 誰かと一緒に両親の墓参りをするなんて、思ってもいなかった。

 祖父母と一緒に眠る両親は、薄情な一人息子を嘆いているんだろうな。

 埼玉にある小さな霊園。付近には田畑も見える。駐車場に車を停め、俺は彼女を墓に案内した。

 彼女は花立てに菊と百合の花を供え、線香に火を点す。

 線香の煙が、ゆらゆらと立ち上り澄んだ空気と混ざり合う。

 彼女の手には白い数珠。その場にしゃがみ込み両手を合わせ、瞼を閉じた。俺も隣にしゃがみ込み、両手を合わせた。

 彼女は閉じていた瞼を開き、両親に話し掛けた。

「おじさん……おばさん……。私……日向さんよりも年上ですが、お付き合いさせていただいても宜しいですか?」

「雨宮さん……」

「日向さん。同じ部署でお付き合いしていることが知れると、地方に異動させられてしまいます。だから付き合っていることは誰にも言わないで下さい。私も他言しませんから」

「わかりました。父ちゃん、母ちゃん、ずっと逢いに来なくてごめん。俺……頑張ってっから、心配しなくていいよ。もう俺は一人じゃない。彼女が傍にいてくれる。だから安心してくれ」

「日向さん……」

 店の厨房で働いていた両親の姿が脳裏に浮かぶ。賑やかな店内、弾ける笑顔。

 両親を助けることが出来なかった懺悔の思いから、涙が滲んだ。
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