獅子に戯れる兎のように
【柚葉side】

 お墓参りを終え、車に乗り込む。

「今日はありがとうございました。でもどうして急に、俺と……」

 日向はエンジンをかけ、私に視線を向けた。

「どうしてかな。日向さんの言葉を、ふと思い出したから、それを確かめたくなったの」

「俺の言葉?」

「高校生だった日向さんが、私にこう言ったのよ。『あんたと俺の赤い糸、もう絡まってるかも』って」

「俺、雨宮さんに失礼なことばかり……」

「あの頃の日向さんは乱暴で怖かった。だから家庭教師を引き受けなくて良かったとさえ思ってた。日向さんが転勤してきた時も、正直拘わりたくないと思った」

「そうですよね。避けられていることはわかってました」

「拘わりたくないと思っているのに、日向さんは私の心にズカズカと入り込む。両親にまで話すなんて、本当に狡い」

「すみません」

「私、あのコンビニの店長と付き合っていました。男性が怖くてトラウマになってたんです。だから今まで交際した人とも、本気で付き合えなかった。あなたの言った赤い糸とか、運命とか、そんなもの信じられなくて。男性の前で素直になれなかった」

 日向がそっと私の手を握った。

「もう何も怯える必要はありません。誰も雨宮さんに危害を加えることは出来ない。そんなこと、この俺が許さないから」

「……日向さん」

 日向の言葉はとても力強く、長い間燻り続けた心の闇が一瞬にして晴れた気がした。

「……俺、本当は両親の店を継ぐつもりでした。だから大学に進学するつもりはなかった。でも両親は俺が店を継ぐことよりも、進学を望んでた。両親に反発していた俺は、家庭教師に当たり散らし乱暴なことばかりして、二度と家に来れないようにしていたんです」

「わざと……あんなことを?」

「本当に……すみません。雨宮さんを傷付けてしまったこと、どんなに詫びても許されないですよね」

「そうだね。あんな酷いことをして、許さないわ」

 日向は私から手を離した。
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