獅子に戯れる兎のように
「本当に運命の赤い糸があるのだと、私に証明してくれないと、私、納得しないから」

「雨宮さん……」

 私は日向の手をそっと握る。

「私と日向さんの赤い糸は絡まってるんでしょう。だから……あなたは私から離れないんだよね」

「はい」

 見つめ合う目と目……。

 誰かに自分からキスをしたいと……
 今まで一度も思ったことはない。

 でも……
 今……

 日向にキスがしたいと……
 そう思った。

 私から日向に……
 唇を重ねる。

 次の瞬間……
 日向は私を強く抱き締めた。

 出逢いは最悪……
 再会は突然に……。

 そして、強引に運命の赤い糸を手繰り寄せ、日向は私を抱き締めている。

 フロントガラスから見える空は、どこまでも広く澄んでいた。

 ◇

 翌日、出社すると社員が山川を囲み、お祝いムードが漂っていた。

「おはようございます」

「おはよう。雨宮さん、山川さんに先を越されたな。彼女、寿退社するそうだ」

 事前に山川から話を聞いていた私は、別に驚きもしないが、『先を越されたな』は、余計なお世話だ。

「おめでとう。山川さん」

「雨宮さんありがとうございます。是非、挙式披露宴に出席して下さいね」

 山川に渡された白い封筒に入った招待状。元カレの挙式に参列するなんて、私には荷が重すぎる。

「喜んで出席させていただきます」

「次は雨宮さんですね」

 然り気無い山川の言葉に、過剰反応している自分が恥ずかしい。

「ナイナイ、私はずっとこの会社で働く予定なので。部長、追い出さないで下さいね」

 社員がドッと笑った。自分で振りながら『笑わないでよ』と、心の中で突っ込む。
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