獅子に戯れる兎のように
 付箋をそっとポケットに収め、日向に視線を向ける。

 日向は私を見て、にっこり微笑む。

 ていうか……
 そんな笑顔反則だよ。

 誰かに見られたら、一目瞭然だ。

 ――昼時間になり、食堂に向かう。食堂の隣にある化粧室で陽乃と出くわした。陽乃は鏡の前でメイクを直している。

「柚葉、昨日のお休みに何してたの?」

「家でのんびりしてた」

「いいお天気だったのに勿体無いな。もう聞いた?庶務課の山川さん、虹原さんとの結婚決まったみたいね。超スピード婚、柚葉と別れて同じ課の女性と結婚するなんて、あり得ないよね」

「陽乃は早耳だね」

「吉倉さんから聞いたのよ。山川さんと吉倉さん同期だから。まさか、元カレの挙式披露宴に招待されてないでしょうね」

「同じ課だからね。スピーチ頼まれた」

 陽乃が口紅を塗る手を止め、鏡越しに私を見た。

「マジで言ってるの?柚葉も大人になったわね。何も感じないの?」

「山川さんは私達のこと知らないもの。それに、私と虹原さんは陽乃が想像するようなこと何もなかったし、ただ付き合っていただけよ。それに陽乃だって、同じ状況なら行くでしょう」

「確かに、私なら男女の関係があっても行くわよ。別れたと同時に、そんなこと全部リセットするからね。柚葉はずっと引き摺るタイプだから、驚いただけ。本当に大丈夫?披露宴で取り乱したりしないよね?」

「私もリセットすることにしたの。だからもう大丈夫だよ」

 ポケットからハンカチを取り出すと、黄色い付箋がヒラヒラと足元に落ちた。

 陽乃の視線がその付箋に釘付けになる。私が拾う前に、陽乃が素早く拾い上げた。

「ハハン、過去をリセット出来ない柚葉が、変貌した理由はコレか」
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