獅子に戯れる兎のように
 ◇

 付箋をポケットに忍ばせ、帰宅した私。家族四人の食卓。

 当然のように、話題は日向と私のこと。花織は自分のことを棚に上げ、両親の前で言いたい放題だ。

「お姉ちゃんオフィスラブってどんな感じ?同じ課なんだよね?社内で公認なの?それとも秘密の関係?」

「そんなことどうでもいいでしょう」

「どうでもよくないよ。どんな風に連絡取り合うの?伝票の間にメモ挟むとか?あはは、それ、時代遅れだよね?」

 今日のことを目視していたかのようなセリフに、思わずお味噌汁を吹き出しそうになる。

「いつの時代よ。みんな携帯電話持ってるのよ。そんなことする必要ないでしょう」

「なんだ、つまんない。オフィスラブって、もっとドキドキするものだと思ってた」

「花織、いい加減にしなさい。それより、お前はどうなんだ。勉強もせず、ダンスに明け暮れ、男と遊び呆けて、それで単位が取れるのか」

 父の小言が花織に向き、花織は「ご馳走さまでした」と箸を置く。まだ食事途中だ。それで父に反抗しているつもりなら、中学生レベルだな。

「花織、お母さんが作ってくれたご飯だよ。残さず食べなさい」

「食欲が失せたの」

「まだお腹の虫が鳴いてるでしょう」

 一人暮らしをしたことのない花織は、大学生になっても精神的に成長していない。親の有り難みがわかってないんだから。

 私の言葉に、花織は口を尖らせ再び箸を持つ。

「本当に、みんなうざい」

「うざいから、家族なのよ」

 歳の離れた妹を持つと、姉も口煩くなる。

 花織は急いで夕食を食べ終え、空になったお皿をシンクに下げた。

「ご馳走様でした」

「はい、よく出来ました」

「お姉ちゃん、本当に《《うざい》》」

 花織の言葉に思わず口角を引き上げる。
 本当にまだまだ子供だ。

 花織が部屋に隠り、母が私に視線を向けた。

「柚葉ありがとう。子供の頃から、柚葉は花織をお母さんの代わりに叱ってくれたよね」

 それは……
 花織に甘い両親に、苛々していただけ。長女と二女の扱いの差に、子供ながらに納得いかなかった。
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