獅子に戯れる兎のように
 ――深夜、タクシーで日向は私を自宅まで送ってくれた。

 タクシーの後部座席、別れ際日向が私の手を握る。

「おやすみ」

「おやすみなさい」

 心が満たされると、体も満たされる。体が満たされると、心も満たされる。

 日向を拒絶していた自分が、今は日向に触れられ、愛の言葉を囁かれるたびに、心がうずく。

 このまま日向の求愛を素直に受け入れれば、私にも幸せな未来が待っているのかな。

 日向と別れ、自宅に戻る。
 両親を起こさないように室内に入り、引き出物の袋をテーブルに置く。

 自分の部屋に入ろうとドアノブに手を掛けた時、隣室のドアが開いた。

「お姉ちゃんお帰りなさい。随分遅かったね。お父さんが心配してたよ」

「三次会まで行ったからね」

「ふーん。お姉ちゃん、首にキスマークついてるよ。二人きりで三次会したんだ」

 思わず首に手をあてる。

「図星だったんだ。いいな、お姉ちゃんは何しても叱られないからね。私なんて、ちょっと遅くなっただけで、お父さんの雷だよ」

「花織のことが、それだけ可愛いってことだよ。学生なんだから、慎みなさい」

「はいはい。そのキスマーク、朝までに消えるといいね。おやすみなさい」

「……っ、おやすみなさい」

 花織はニヤニヤ笑いながら、ドアを閉めた。心は未熟なくせに、体だけは成熟してるんだから。

 部屋に入り、鏡で首筋を映し出す。花織の言うとおり、白い肌が赤くなっている。

 ホテルでは気付かなかった……。

 ドレスを脱ぐと、胸元にもキスマーク。

「……もぅ」

 甘い夜を思い出し、思わず赤面する。

 明日はファンデーションで誤魔化すしかないな……。
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