獅子に戯れる兎のように
 ◇

「それで、昨夜はどうだったの?幸せな二人を見て燃え上がったとか?」

 ―花菜菱デパート社員食堂―

 ランチをしながら、いきなり昨夜の話?

 さすが、陽乃。

 両親にはバレなかったキスマークに、数秒でもう気付いた。

「燃え上がったとか止めてよ」

 思わず手で、キスマークを隠す。

「柚葉、何真っ赤になってんのよ?元カレと山川さんのラブラブな披露宴を見て、嫉妬の炎で二人も燃えたんでしょう?って、聞いたんだよ。まさか、ショックが大きすぎて、違う人とベッドで燃え上がったの?」

「うわわ、陽乃。シーッ」

 両手を前に出し、陽乃の口を塞ぐ。陽乃の目はファンデーションで消したはずのキスマークをジーッと見ている。

「ベッドで炎上したわけだ」

「もう知らない」

「何が炎上したの?」

 こんなタイミングで、美空が来るかな。

 美空はデミグラスソースのオムライスとシーザーサラダ、野菜ジュースの乗ったトレイをテーブルの上に置いた。

「柚葉、昨日どうだったの?超派手婚だったみたいね。元カレの披露宴に出席するなんて、なかなか経験出来ないよ。ちょっと刺激的な夜だったりして」

 美空の言葉に、陽乃がクスクスと笑った。

「そうね。《《かなり》》刺激的な夜だったみたいよ」

「まじで?ショックだろうけど、自棄にならないでよ。自棄になって、一夜の恋に溺れるとか、そんなベタなこと、柚葉に限ってないだろうけどね」

「ベタなこと、しちゃったみたい。まぁ、心理的には無理もないけど」

 陽乃は私のキスマークを指差す。

「やだ!?自分を安売りしないで。一体誰としたの。バカだね」
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