獅子に戯れる兎のように
 美空に容赦なく斬り捨てられ、返す言葉もない。

「でも、柚葉が夢中になれる相手を見つけたってことは、それはそれでめでたいかもね。オンナ復活」

 陽乃は笑いながら、言葉を続ける。

「柚葉はさ、いつも後ろ向きの恋をしてきたから。柚葉を前向きにさせた男って、よっぽど凄いのね」

「やだぁ、どんだけ凄いのよ」

 美空はオムライスを食べながら、陽乃の背中をパンッと叩く。完全に卑猥な妄想している。

 ここが社員食堂だということを完全に忘れている。

「あのさ、二人ともいい加減にして。ここは職場なの」

「そうでした、そうでした。美空、そう言えば権田さんが、どうしても美空に逢いたいみたいよ」

「ブッ……」

 美空は思わず吹き出した。

「美空もいい加減、前向きになったらどう?恋が仕事の支障になるなんてナンセンスだよ。本気で恋したことがないから、そんなセリフが言えるの」

「権田さんのことは断ったでしょう」

「男勝りの美空に、こんなにアプローチしてくる男性は今までいなかったよ。一緒に食事するくらい別にいいんじゃない?」

「一度誘いに乗ったら、勘違いするでしょう」

「いいじゃない。美空、仕事が出来る女は、男も自由に操れないと。たまには体にも甘い栄養を与えないと、お肌も潤わないよ。恋は高級化粧品よりも勝るんだから」

「なるほど、だから陽乃は常に恋人いるんだ。男で高級化粧品の節約してるとは、知らなかったな」

 皮肉混じりの美空の言葉に、陽乃は苦笑いしている。

 心か満たされていると、気持ちにゆとりが出来るせいか、二人のこんな会話も笑って聞けるようになるから不思議だ。

「美空も恋人作りなよ。人を好きになるって、素敵なことだから」

 私の言葉に、二人が目を見開いた。

「やだ、柚葉のセリフとは思えない。柚葉どうしたの?よほど高熱に魘されてるみたいね」

 美空は仰天し、私を見つめた。

「乾季が終わり、雨季で潤い、猛暑が訪れたってわけだ」

 陽乃は意地悪な笑みを浮かべ、一番奥の窓際の席で男性社員とランチしている日向に、チラッと視線を向けた。

「陽乃、もういいでしょう」

「そうだね。ハッピーエンドはつまらない。次は美空で楽しませてもらうわ」

「陽乃、私で楽しむってどういう意味よ」

「キャリアウーマン目指してる《《くそ》》真面目な美空を、どうやってこちら側に引き込むか、遣り甲斐あるでしょう」

「……っ、くそ真面目で悪かったわね。陽乃と価値観が違うだけだよ」

 美空の価値観という言葉に、一抹の不安が過る。

 日向と私の価値観。
 日向と私の未来予想図は、明らかに異なっている……。
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