獅子に戯れる兎のように
 一喝するものの、食卓は険悪なムードに包まれる。

 バタンと玄関が閉まった音がし、花織が反抗して家を飛び出したことがわかった途端、お酒を飲んでいた父のピッチが上がり、お猪口がグラスに変わった。

「お父さん、深酒はよくないよ。花織くらいの年齢は自分が大人だと勘違いする年なんだから。校則や制服から解放され、自由になったと勘違いしてるの。私は大学進学と同時に一人暮らしを始めたから、お父さんやお母さんにそんな一面を見せなかっただけで、花織も同じなんだよ」

「柚葉は男遊びはしなかった」

 確かに真剣な恋だったけど、相手に裏切られた。私が恋をし深く傷付いたことを、両親は知らない。

「恋は熱病みたいなもの。反対すればするほど、花織はその人のところに行っちゃうよ。花織の彼氏と一度逢ってみたら?そうすれば花織も羽目を外せなくなるかも」

 ブスッとしたまま酒を飲み干す父。母は私の言葉に頷いた。

「そうね、柚葉の言う通りかもしれないわね。反対ばかりしていたら、本当に駆け落ちでもしかねないわ。父さん、花織の交際相手に一度逢ってみましょう」

「その必要はない」

「だったら、父さんが居ない時に逢うわ。父さんはそれでいいの?」

「だめだ、お前に任せておけない」

「それなら、今度食事に招待しましょう。その時は、柚葉も日向さんも付き合ってくれるわよね?」

「……えっ、私達も!?」

「花織の交際相手と逢うように勧めたのは柚葉よ。父さんが暴言吐かないように、ちゃんと付き合って」

 母の言葉に、父は「何が暴言だ」と、ぶつぶつ呟きながら、「熱燗空っぽだ。早くしろ」と、母にあたり散らす。

 日向はそんな両親を見ながら、優しく微笑む。

「俺でよければ、食事会に出席させていただきます」

 マジですか……。

 どこまでお人好しなの。
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