獅子に戯れる兎のように
雨の中を項垂れて歩いていると、体を打ち付けていた雨が止まる。
ふんわりと温かなものに包まれ、頭上を見上げると白いビニール傘が私の体を包み込んでいた。
小暮が私の後を追ってきた……。
咄嗟にそう思った私は、弱い心を奮い立たせ勇気を振り絞る。
負けない。負けない。
小暮の言いなりになんてならない。
小暮との縁を断ち切るために、振り向き様に啖呵をきった。
「ネットに流すなら好きにすればいいわ!私はもう二度とあなたと付き合う気は……」
「は?何いってんの?」
視線の先にいたのは、小暮ではなく日向だった。ビニール傘からはみ出ている大きな体は、雨に濡れている。
「……日向君」
「店内に入った時、妙な雰囲気だったから怪しいと思ったんだ。写真をSNSに流すって何のこと?あの店長と付き合ってんの?」
「……違います。勘違いしないで」
「あんたが誰と付き合っても、俺には関係ねぇけど。店内で痴話喧嘩はみっともねーよ。それにあの男もどうかしてる。これ以上濡れると風邪引くぜ。ほら、この傘やるよ」
日向はずぶ濡れの私に、自分のビニール傘を握らせると、豪雨の中を走りコンビニへ戻った。
日向が走る度にピシャピシャと雨水が跳ねる。
私に傘を渡して、自分が濡れてるじゃない。バカみたい。
稲光は空を不気味光らせ、私の身も心も、容赦なく切り裂いた。