獅子に戯れる兎のように
「日向さんがそこまで言うなら、仕方がないな。母さんに日にちは任せる」

 父の言葉に、思わず母と顔を見合せる。

 日向さんのせいにしなければ、娘のボーイフレンドにも逢えないなんて、父親って本当に根性ないんだから。

 食事のあと、暫く私の部屋で音楽を聴きながら寛ぐ。

 寮では出来なかった室内デート。ベッドに背を凭れ、日向と私は手を繋いでいる。

 まるで高校生みたいだな。

「今日はごめんなさい。驚いたでしょう。父は昔から短気で横暴な所があるから、いつもあんな感じなの」

「雨宮さんもお父さんに反抗してたの?想像つかないな」

「私は大学進学と同時に家を出たから、反抗することもなかった。花織は親と同居してるから、未だに自立出来てないし、親も子離れ出来ないのよ」

「親子喧嘩出来るなんて、幸せだよ。俺には喧嘩する親ももういない」

「……日向さん」

「でも、散々反抗もしたし、親子喧嘩もしたし、両親には俺のことで苦労させた」

「ご両親は苦労だなんて思ってないよ」

「本当にそう思ってる?俺は雨宮さんにも、嫌な想いをさせた」

 日向と視線が重なり、高校生だった日向を思い出し、思わずクスリと笑う。

「なに笑ってるの?」

「日向さんのヤンチャだった頃を思い出したの。顔も見たくないくらい、本当に嫌なヤツだったなって。でもその顔が、今、目の前にある……」

「もっと間近で見てみる?」

 日向の顔が近付き、チュッとキスを交わす。

「あの時のキスは強引で怖かった……」

 鼻先がくっつきそうな位置。日向の唇は数センチしか離れていない。

「さっきのキスも怖かった?」

 日向の吐息が唇を掠める。

「……意地悪ね」
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