獅子に戯れる兎のように
「図星だったんだ。いいな、大人は。リビングに両親がいるのに、何してもOKなんだから」

「花織、いい加減にしなさい。今度お母さんが彼に逢うって言ってたよ。付き合うならキチンと紹介してから付き合いなさい。まだ大学生なんだからね」

「お姉ちゃんそれ本当?」

「嘘ついてどうするの。私達まで付き合わされることになったんだからね」

「お姉ちゃんサンキュー。これで堂々と自宅デート出来る。日向さん、さようなら」

 花織はニコッと笑い、パタパタとエレベーターに向かい、上機嫌で手を振った。

 エレベーターのドアがスーッと閉まる。

「なに、あれ?」

 日向と顔を見合せ、思わず吹き出す。

「若いって可愛いな」

「日向さんも十分若いでしょう」

 自分が発した自虐的なセリフに、思わず苦笑い。

「まだ年齢を気にしてるんだ」

 意地悪な笑みを浮かべる日向。四歳の歳の差はどんなに頑張っても一生埋まらないってこと、わかってるのかな。

 エントランスを出ると、日向は繋いでいた手をほどいた。

「駅まで送るよ」

「ここでいい。駅まで送られたら、また俺がマンションまで送らないといけなくなるだろ。朝まで、それを繰り返す気?」

 日向の言葉に、思わずクスリと笑う。

「そうだね。今夜はありがとう」

「うん。おやすみ」

 時折脇腹を押さえながら、笑顔で手を振る日向を、歩道で見送った。
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