獅子に戯れる兎のように
 ―翌日―

 日向は出社しなかった。
 昨夜、飲み過ぎた以外、特別変わった様子もなかった。LINEするものの既読にはならず、電話も通じず、朝からソワソワと落ち着かない。

 日向に何かあったのかな。
 帰宅途中にまさか……事故!?

 そう言えば、昨夜駅の方向で救急車のサイレンが鳴っていたような……。

「部長!日向さんから連絡は?」

「日向?連絡はないな。無断欠勤とはけしからん。最近の若い奴は連絡ひとつ出来ないのか」

「何か連絡が出来ない事情があったのでは?」

「日向は独身寮だよ。何かあれば会社に連絡出来るだろう」

 だとしたら……
 何をしてるの?

 遅刻や欠勤は会社に連絡しないといけないことくらい、日向もわかっているはず。

 デスクから日向に電話を掛けるわけにいかず、席を立ち女子トイレの個室から、日向に電話をする。

 コールはするものの、電話には一向に出ない。

 寮に電話すると、懐かしい食堂のおばちゃんの声がした。

「おはようございます。雨宮です」

『まぁ、雨宮さん久しぶりね。元気にしてるの?たまには寮にご飯食べにおいで』

「ありがとうございます。おばちゃん、日向さんは今日風邪でお休みですか?」

『日向さん?昨夜戻ってないみたいよ。若いから、友達のところにでも泊まったんでしょう。もしかして無断欠勤してるの?』

「いえ……。寮にいないのなら、何かの事情で遅刻しているのだと思います。ありがとうございました。失礼します」

『雨宮さんも大変ね。社員の管理も任されているの?仕事頑張ってね』

「はい」

 昨夜マンションから駅に向かい、消息が途絶えた!?

 事件や事故に巻き込まれ、連絡出来ないほど最悪な状態に……!?
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