獅子に戯れる兎のように
 女子トイレを飛び出し、総務部に戻り、部長に詰め寄る。

「部長、大変です。日向さんは事件か事故に巻き込まれた可能性が……」

「事件か事故?雨宮さん何を言ってるんだ?さっき病院から電話があったよ。暫く休むそうだよ。有給休暇消化して」

「……病院!?」

「緑ヶ丘の松波総合病院に緊急入院したそうだ。でも、何で緑ヶ丘の病院なのかな。寮は汐留なのに」

 緑ヶ丘の病院!?
 松波総合病院は駅前にある。

 私に電話出来ないくらい、重症なの!?

 一旦席に着いたが落ち着かず、再び席を立つ。

「部長、今日は早退させて下さい」

「早退?まだ十時だぞ」

「欠勤にしていただいても構いません。失礼します!」

 呆れている部長に頭を下げ、総務部を飛び出した。

 ◇

 ―緑ヶ丘、松波総合病院―

 病院の受付で日向の病室を聞き、三階の病棟に急ぐ。

 病室は三階の四人部屋。
 開け放たれたドア。室内からは笑い声が聞こえている。

 日向は重症で私に電話も出来ないと思っていたのに、四人部屋で笑い声って……。

 ドアの横にある名札には、確かに『日向陽』の文字。誤りではなさそうだ。

 ドアを覗き込み室内に入ると、若い四人の男性。窓際の右側のベッドに日向の姿があった。

「雨宮さん、どうしたんですか?会社は?」

「日向さん、怪我は?大丈夫なの?」

「怪我?怪我は……してないけど」

 日向のとぼけた声に、同室の三人がケラケラと笑い出す。

「……怪我してない?」

「日向さん。俺達、談話室でジュース飲んで来るよ。カノジョさんでしょ?日向さんの言う通り、超美人ですね。じゃあごゆっくり」

「……えっ?」

 同室の患者さんがニヤニヤ笑いながら、ゾロゾロと部屋を出る。見舞い客が入院患者を病室から追い出すなんて、前代未聞だ。

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