獅子に戯れる兎のように
【陽side】

 ダチと一緒にコンビニに入る。
 外はゲリラ豪雨だ。

 単なる雨宿りのつもりだったが、店内に入ると女性の後ろ姿に見覚えがあった。

 女性はコンビニ店長と何やら揉めているようだ。ていうか、あの二人明らかに怪しい雰囲気だな。

 男と女の関係は、二人を包み込む空気でなんとなくわかる。あの二人も痴話喧嘩なのか?

 意識を集中し耳を傾けると、男の声が微かに聞こえた。

『写真』『SNS』『公開』リベンジポルノかよ。

 くだらねぇ。

 その時……女の横顔が見えたんだ。

 その横顔は……
 ……あの……家庭教師?

 男っ気なんてないと思っていた彼女が、コンビニ店内で痴話喧嘩をしていることに、俺は驚きを隠せない。

 その怯えた横顔が、俺の部屋で見た怯えた眼差しと重なり、鮮明に脳裏に蘇る。

 これは、痴話喧嘩ではなく……
 男に脅されているのか?

 傘も差さず豪雨の中に飛び出した彼女。
コンビニ店長はその彼女を見てほくそ笑む。胸くそが悪いくらい、厭らしい目で笑った。

 俺の中で、何かが弾けた。
 衝動的に心が突き動かされる。

「陽、お前何買う?雨酷いし今からみんなでカラオケ行かね?」

「カラオケか、いいよ。先に買い物してろ。俺ちょっと出てくる」

「は?この雨の中に、どこいくんだよ」

「雨だから行くんだよ。すぐ戻る。ここで待ってろ」

 俺は自分の傘を掴み、雨の中に飛び出した。前方にはずぶ濡れでトボトボ歩いている彼女。

 何やってんだよ。

 雨水を跳ねながら、俺は彼女に走り寄った。

 他人に興味なんてねぇ。善人面するつもりもない。

 俺を突き動かしたのは正義感ではない。

 自分が彼女にしたことへの罪悪感……。
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