獅子に戯れる兎のように
彼女の瞳は濡れていた。
雨で濡れていたのか、涙で濡れていたのか、わからないほど濡れていたんだ。
女に優しい言葉なんてかけたことのない俺。どう声を掛ければいいのかわからず、傘を差しかけ彼女が最も触れて欲しくないであろう言葉を投げかける。
「やっぱりな。店内に入った時、妙な雰囲気だったから怪しいなと思ったんだ。SNSに流すって何のこと?あの店長と付き合ってんの?」
馬鹿な俺。
これ以上彼女を傷つけてどうすんだよ。
「……違います。誤解しないで」
「あんたが誰と付き合っても、俺には関係ねぇ。ほら、この傘やるよ」
彼女にビニール傘を握らせ、雨の中へ飛び出した。
先日の詫びも言えず、彼女から逃げ出した。
最高にカッコ悪い。
コンビニに戻ると、ダチが一斉に爆笑した。
「お前何やってんの?ずぶ濡れじゃん。持ってた傘どーしたんだよ。まさか、さっきの女を、ゲリラ豪雨の中でナンパしたのか?相変わらずバカだなぁ」
ダチにからかわれフンと鼻を鳴らし、鬣《たてがみ》が濡れた獅子《ライオン》みたいに首を左右に振り濡れた髪の水滴を飛ばす。
その時、店長と目が合った。店長は白いタオルを手に、満面の笑みで俺に近づく。
「お客様、宜しければこのタオルをお使い下さい」
笑顔でタオルを差し出す男。その左手の薬指にはリングが光っていた。
結婚してるのに不倫かよ。
しかもリベンジポルノ。
差し出されたタオルを床に叩き落とす。
騒然となる店内。
「汚ねぇ手で触ったタオルなんか、いらねーよ」
店長は訝しげな眼差しで俺を見据え、床に落ちたタオルを拾った。俺はその姿を携帯電話で撮影した。
店長は腰を屈めたまま、俺を見上げた。
「お客様、何のつもりですか」
「俺は全部知ってるんだ。もしも彼女の画像をSNSに流したら、俺が今撮った写真をネットに流し『ストーカー男の正体』と見出しをつけて拡散する。警察にもストーカーだと通報してやる。今すぐ画像を削除しなければ、そのうち奥さんに知れることになるだろう」
俺の言葉に店長はおののき顔を歪めた。ダチは何のことか意味がわからず騒ぎ立てる。
「……画像なんか……残ってない」
「すみませんね、店長さん。こいつ、導火線短いから、気にいらねぇとすぐに爆発しちまうんだ。まぁ、俺達みんな同類だけどね。店長さんが何をしたか俺達は知らねーが、こいつ、マジだから気をつけなよ」
レジで精算を済ませたダチが、笑いながら俺の肩を叩く。
「陽、この辺で勘弁してやれや」
店長は黙って頭を垂れている。店内にいた店員はその様子を黙って見ていた。
ダチに促され、俺はその場を立ち去る。
「どうした陽。さっきの女と知り合いか?彼女ストーカーされてんの?《《それ》》マジで拡散すんのか?」
「ちげぇよ。ちょっと脅しただけだ。この店には二度と来ねぇよ」
ダチの傘を奪い取り、雨の中に飛び出す。
「バカ、コイツ!傘返せっつーの!俺が濡れるじゃん」
「濡れてろ」
滝のような雨を浴びながら、ダチと一本の傘を奪い合う。
善人面をした店長の、表と裏の顔を知りヘドが出そうだった。
雨で濡れていたのか、涙で濡れていたのか、わからないほど濡れていたんだ。
女に優しい言葉なんてかけたことのない俺。どう声を掛ければいいのかわからず、傘を差しかけ彼女が最も触れて欲しくないであろう言葉を投げかける。
「やっぱりな。店内に入った時、妙な雰囲気だったから怪しいなと思ったんだ。SNSに流すって何のこと?あの店長と付き合ってんの?」
馬鹿な俺。
これ以上彼女を傷つけてどうすんだよ。
「……違います。誤解しないで」
「あんたが誰と付き合っても、俺には関係ねぇ。ほら、この傘やるよ」
彼女にビニール傘を握らせ、雨の中へ飛び出した。
先日の詫びも言えず、彼女から逃げ出した。
最高にカッコ悪い。
コンビニに戻ると、ダチが一斉に爆笑した。
「お前何やってんの?ずぶ濡れじゃん。持ってた傘どーしたんだよ。まさか、さっきの女を、ゲリラ豪雨の中でナンパしたのか?相変わらずバカだなぁ」
ダチにからかわれフンと鼻を鳴らし、鬣《たてがみ》が濡れた獅子《ライオン》みたいに首を左右に振り濡れた髪の水滴を飛ばす。
その時、店長と目が合った。店長は白いタオルを手に、満面の笑みで俺に近づく。
「お客様、宜しければこのタオルをお使い下さい」
笑顔でタオルを差し出す男。その左手の薬指にはリングが光っていた。
結婚してるのに不倫かよ。
しかもリベンジポルノ。
差し出されたタオルを床に叩き落とす。
騒然となる店内。
「汚ねぇ手で触ったタオルなんか、いらねーよ」
店長は訝しげな眼差しで俺を見据え、床に落ちたタオルを拾った。俺はその姿を携帯電話で撮影した。
店長は腰を屈めたまま、俺を見上げた。
「お客様、何のつもりですか」
「俺は全部知ってるんだ。もしも彼女の画像をSNSに流したら、俺が今撮った写真をネットに流し『ストーカー男の正体』と見出しをつけて拡散する。警察にもストーカーだと通報してやる。今すぐ画像を削除しなければ、そのうち奥さんに知れることになるだろう」
俺の言葉に店長はおののき顔を歪めた。ダチは何のことか意味がわからず騒ぎ立てる。
「……画像なんか……残ってない」
「すみませんね、店長さん。こいつ、導火線短いから、気にいらねぇとすぐに爆発しちまうんだ。まぁ、俺達みんな同類だけどね。店長さんが何をしたか俺達は知らねーが、こいつ、マジだから気をつけなよ」
レジで精算を済ませたダチが、笑いながら俺の肩を叩く。
「陽、この辺で勘弁してやれや」
店長は黙って頭を垂れている。店内にいた店員はその様子を黙って見ていた。
ダチに促され、俺はその場を立ち去る。
「どうした陽。さっきの女と知り合いか?彼女ストーカーされてんの?《《それ》》マジで拡散すんのか?」
「ちげぇよ。ちょっと脅しただけだ。この店には二度と来ねぇよ」
ダチの傘を奪い取り、雨の中に飛び出す。
「バカ、コイツ!傘返せっつーの!俺が濡れるじゃん」
「濡れてろ」
滝のような雨を浴びながら、ダチと一本の傘を奪い合う。
善人面をした店長の、表と裏の顔を知りヘドが出そうだった。