獅子に戯れる兎のように
 そうだよ……
 これが私の答え。

 自分に自信がなく、人を愛せない自分に失望した。

 人を愛せない人間が、結婚する資格はない。

 体の相性は性格の不一致よりも、結婚生活を左右する。いずれ虹原は、私から離れていくだろう。

「君の気持ちはよくわかった。俺達、これで本当に終わりだな。短い間だったが、君と逢えて良かった。憎しみあって別れるのは、俺の性に合わないからね。今夜は笑って別れよう」

 身勝手な虹原の言い分も、大阪に転勤すると思うと許せる自分がいた。

 私はとことんバカな女だ。何をされても、何を言われても、バカみたいに笑ってる。

 しかもこの場で、山川の話を持ち出すなんて自分でも呆れてしまう。

 最低だよね。

 ◇

 『LaLaLa』で虹原と別れ、自己嫌悪に陥り虚しくなった。真っ直ぐ独身寮に戻る気になれず、人の温もりに触れたくて緑ヶ丘にあるマンションに向かう。

 緑ヶ丘には、今年四月、四国から東京に転勤になった両親と妹が住んでいる。

 マンションは三LDK。
 妹は今年都内の女子大に進学した。

 ―緑が丘―

 玄関のチャイムを鳴らすと、すぐにドアが開いた。

「あら、柚葉珍しいわね。どうしたの?お帰りなさい」

「ただいま」

 出迎えてくれたのは、専業主婦の母。
 東京在住となり、『いつでも帰りなさい』と口癖のように言うが、いざ帰宅すると『どうしたの?何かあったの?』と不思議がる。

 リビングに入ると、短パンを穿き太腿を露わにした妹がソファーに寝転がっている。綺麗な脚に豊満なバスト、我が妹ながらTシャツから覗く胸の谷間にドキッとする。

 この悩ましい仔猫が、すでにこの家の主だ。
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