獅子に戯れる兎のように
「父さん、柚葉にもそれなりの理由があったのでしょう。頭ごなしに叱らなくてもいいじゃありませんか。結婚は一生の問題なんだから」

 母の一言で父は黙り込む。母は私の気持ちを察し庇ってくれた。

「柚葉、父さんも母さんもあなたのことが心配なのよ。もう年頃なんだし、交際相手とは結婚を意識したお付き合いをしなさいね」

 なんだ、庇ってくれたわけじゃない。
 母も私が愚かだと思ってる。
 社会人になったら、結婚を意識した相手でなければ交際してはいけないの?

 私は浮ついた気持ちで、交際をしていたわけじゃない。

 でも……いざとなると、臆病になる。

「お姉ちゃんさ、お見合いとかしたら?婚活パーティーとか、どんどん参加すればいいのに。もっとメイクして、洋服も明るい色を着れば、印象なんてガラリと変わるよ。《《もと》》は悪くないんだから」

 『もと』ってなによ。
 私がセンスないっていいたいの。

「婚活パーティー?そんなの興味ないし。回転寿司みたいに、女性の前をくるくる回ってる男性と付き合えない」

「あはは、回転寿司だなんて笑っちゃう。それ、ウケる。婚活パーティーも合コンとたいして変わらないよ。私も婚活付き合おうか?面白そうだしね」

「こら、花織。大学に入学した途端合コンだの婚活パーティーだの、未成年のくせにいい加減にしなさい」

 すかさず、父の雷が落ちる。

「はーい。冗談だよ」

 厳格な父も花織には敵わない。花織は私に視線を向け、茶目っ気たっぷりに舌を出した。

「柚葉、今夜はもう遅いから泊まっていきなさい」

「ちょっと顔を見に来ただけだから。もう少ししたら寮に帰る」

「そう?独身寮なんて出て、一緒にここで暮らせばいいのに。寮は窮屈じゃないの?」

 私にとって、寮よりも家の方が窮屈だよ。家族なのに他人の家みたいに居心地が悪い。
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