獅子に戯れる兎のように
「柚葉、フリーになったなら、私と婚活パーティー行かない?」

 私の心の声、陽乃には届かなかったようだ。

「婚活パーティー?陽乃、今付き合ってる人いるでしょう。まだそんなところに行ってるの?」

「彼氏はいるけど、結婚前提の恋人はいないわ。女性の参加費は男性よりも安いし、今回のパーティーは男性は医師、弁護士、会社社長、セレブ限定なんだよ。悪くないでしょう」

 陽乃は私の目の前で指先をくるくる回す。そんなことをしても婚活催眠にはかからないよ。

 ていうか、そもそもセレブな職業の人と話が合うわけない。どんな会話をすればいいのか、それすらわからないんだから。

「私、もう誰とも付き合う気ないから」

「やだ、柚葉までそんなこと言うなんて、みんなどうかしてる。恋をしないと女性ホルモン潤わないし、肌がカサカサになっちゃうよ。もう私達、二十七なんだから」

「まだ、二十七だよ。私達は陽乃みたいに男にガツガツしてないからね。受付嬢なんだか、肉食嬢なんだか」

「可愛い子羊を捕まえて、肉食嬢だなんて、美空は本当に失礼ね」

「子羊は狼を食べないでしょ」

 少し棘のある女子トーク。これも同期ならばこそ。

 少し離れた席に座っていた総務部の男性社員が、食事を終えトレイ片手に一斉に立ち上がる。

 虹原は私達に気付き、テーブルに歩み寄った。

「随分賑やかだと思ったら、君達だったのか」

 口元にはいつもと変わらない優しい笑みを浮かべているが、視線は私ではなく陽乃に向けられている。

「虹原さん、ご栄転おめでとうございます」

 陽乃はすかさず、言葉を返す。

「今回は栄転とはいえないけど、俺はこのままでは終わらないよ。将来的には海外勤務希望だから」

 虹原は栄転をやんわりと否定し、男のプライドを滲ませた。

「海外勤務か。その時は新しい彼女も連れて行くの?相変わらず、公私共に忙しそうね。お幸せに」

 美空はみんなの前で平然と嫌味を言い放つ。虹原が私をチラッと見た。私の立場も考えて欲しい。

「もう知ってるんだ。女子に秘密ごとは出来ないね。噂が一日で広まるなんて怖いな。色々お世話になりました。みんなも元気で」
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