獅子に戯れる兎のように
「日向さん……。二次会に行かなかったの?あなたの歓迎会なのに」

「主役は虹原さんですから。俺は酒は飲めないし、人付き合い苦手だから」

「そうですか。私と同じですね。私も苦手なんです。だから本社の総務部に配属されて良かったと思ってるの。店頭営業部門ではないから、接客しなくていいしね」

「歓送迎会の席でテキパキ動かれていたので、仕切ることが好きな方なんだと思ってました」

「やだな。そんな風に見えました?虹原さんと同期だから、部長に幹事を頼まれて断れなかったの。あっ、ごめんなさい。日向さんの歓迎会でもあるのに、失言でした」

 日向は爽やかな笑顔で笑った。同姓同名だけど、やはり別人だ。

 あの不良高校生に、こんなに爽やかな笑顔が出来るはずがない。

 駅の構内に入り日向と別れるつもりだったが、日向も同じホームへと進む。

「もしかして、日向さんも独身寮ですか?」

「はい。雨宮さんもですか?」

 独身寮は女子寮と男子寮が隣接している。共に二十室ずつあり、食堂だけは共同スペースとなっている。

 社会人の寮であるため、門限は厳しくはないが、食事の有無だけは食堂に貼られた名簿にチェックする仕組みになっているため、急用で夕食が不要となっても、料金は支払わなければいけないルールとなっている。

 電車内で日向に寮のルールを色々説明する。事前に規約を渡されているはずだから、説明するまでもないが、汐留までの時間潰しを兼ね、まるで世話好きの寮母みたいだ。

 私は寮では一番の古株。二十七にもなって、未だに独身寮だなんて自慢出来ない。普通は二~三年で独身寮は卒業し、単身者向けマンションへと移り住む。
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