獅子に戯れる兎のように
 ドアを閉めると隣室から微かにガチャンと音がした。

 まさか……
 隣室に?

 壁側にベッドを置いている私。いつもベッドに座り壁に背をつけ、正面に置いたテレビを観る。

 洋服を着替え、いつものようにテレビをつけベッドに上がる。

 隣室は半年間空室だった。なのに隣から足音や時折物音がする。日向ではないかと意識する私、やはり悪酔いしているようだ。

 少し酔いを冷まし、シャワーを浴びよう。

 ベッドから下り冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、キャップを開け直接口をつける。

 ――『なぁ、先生、俺のやり方が正解か不正解か教えてよ』

「……うっぷ、こほこほ」

 不良少年との苦い過去を思い出し、思わず噎せかえる。

 日向はあの不良少年ではない。雰囲気も言葉遣いも全く異なる。

 もし彼があの高校生なら、私にとっくに気付いているはず。

 大体、彼は高校を卒業したらあの居酒屋を継ぐと言ったんだ。今頃はあの店で両親と共に働いているはず。

 そう思うと、小伝馬町にあった居酒屋でもらった焼き鳥の味が、妙に懐かしく感じられた。

 そうだ。
 気になるなら、確かめればいい。

 あの居酒屋に行けば、確かめることが出来る。

 月曜日は店休日、午前中は予定もない。

「行ってみようかな」

 心の中にある蟠りを拭い去るためにも、もう一度あの場所に行こう。
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