獅子に戯れる兎のように
 ―月曜日、午前七時半―

 私はいつものようにジーンズに黒いトレーナーの部屋着で、一階の食堂に降りる。

 食堂にいたのは数名のみ、殆どの社員は、休日は朝寝坊イコール朝食を取らない。

「おはようございます。おばちゃん、いつもの下さい」

「雨宮さんおはよう。いつもの和食ね」

 朝はご飯とお味噌汁。あとはおかずが数品あればいい。甘めの卵焼きと鮭の塩焼きが乗ったトレイを渡され席に着く。

 一階の食堂、窓際の席からは小さな中庭が見える。管理人兼食堂のおばちゃんがプランターに植えた花が風に揺れている。

 この席が空いてると、今日一日いいことがあるような気がするんだ。

「おはようございます。ここ同席してもいいですか?」

 窓の外を眺めていると、不意に声を掛けられた。

「日向さん。おはようございます。早いですね。どうぞ……」

「はい。早起きは三文の徳だと、父がよく話してましたからね」

「若いのに、古い諺をよく知ってるのね」

 日向は椅子に腰を下ろし、笑みを浮かべ珈琲を口に運ぶ。日向の朝食は洋食、トーストと珈琲、目玉焼きとサラダ。

「朝食セット和食なんですね。意外だな」

「そうですか?日向さんこそ洋食なんですね。意外だな」

「実家の朝食が和食だったから、その反動かな」

 日向は言葉を選びながらゆっくり話す。

 食堂で男女が同席することはない。社内で噂になることを敬遠し、みんな同性同士か一人で食事することが多い。
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