獅子に戯れる兎のように
「みんな淡々としてますね。もっと和気藹々としているのかと思った」

「これが普通だよ。社内で噂になると困るから」

 日向は珈琲カップをテーブルに置く。

「雨宮さんも困るのかな?すみません迷惑でした?」

 面と向かって言われると、正直返答に困る。

「……私は構わないけど、日向さんは困るんじゃない?男性の異性問題は出世にも拘わるでしょうから」

「食堂で一緒に食事したくらいで出世に拘わるなんて、サラリーマンって、くだらないですね」

 くだらないと言い切った彼の言葉に、思わず納得する。社内の目ばかりを気にし、虹原と隠れるように交際した一年。

 その結果がこれだ。

「そうね、くだらないわね」

「あの、俺の部屋二階なんです。女子寮と壁を隔てた部屋なんだけど。もしかして、隣は雨宮さんですか?一昨日同じ時間くらいにドアが閉まる音がしたから気になって」

「……ぇっ?」

 やっぱり隣は日向の部屋だったんだ。

「そうだけど」

「やっぱりそうだったんですね。男子寮と女子寮の廊下に壁がなければお隣さんですね。壁薄いからテレビやオーディオの音が煩かったら言って下さい」

 テレビの音は全然気にならなかったけど、昨日煩かったのかな?

「こちらこそ、煩ければ言って下さいね」

「あの、寮に友達とか自由に入れてもいいのかな?」

「同性なら多少は構わないと思いますよ。夜中に騒いだり異性を泊めるのはNGだけど。そこは社会人としてのマナーさえ守れば」
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