獅子に戯れる兎のように
【8】結婚相手は血統書付きの犬科
 店を出た私は、目的もなく歩き小さな公園にたどり着く。

 自販機にコインを入れ珈琲を取り出す。

 木陰に置いてあった色褪せたベンチに座り、さっき買ったサンドイッチを袋から取り出し、缶珈琲を開ける。

 木漏れ日の下で食べるサンドイッチ。店主の衝撃的な話に動揺し、味なんてわからない。

 公園の中には小さなジャングルジムと滑り台と砂場がある。

 子供達が走り回り、楽しそうに遊んでいる。

 公園の前をガヤガヤと賑やかな声を発しながら、数名の男性が通り過ぎる。

 年齢は二十代前半、大学生だろうか。ヤンキーっぽい男性もいれば、好青年もいる。

 同じグループなのに、アンバランスだな。

「あの陽《あきら》が真面目に働いてるなんて、正直信じらんねぇよ。見違えたな」

「俺は俺だ。何も変わってねぇよ。ただ世の中は金だと悟っただけだ」

 複数の人の陰となり、聞き覚えのある声がした。

 あの声は……
 日向陽……。

 友達と逢うと言ってたけど、まさか同じ小伝馬町にいたなんて。

 私は思わずビニール袋で顔を隠す。こんな公園で一人寂しくサンドイッチを食べているなんて、彼に見られたくない。

「懐かしい公園だな。高校生の頃、俺らよくここでタムロしたよな。威《たけし》の兄ちゃんからパクッた煙草を吸ってて、センコーに見つかったのもここだ」

 ヤンキーぽい男性がゲラゲラ笑ってる。

「あはは、必死で走って逃げたが全員停学」

「そうだったな」

「赤点だらけの陽が、急に進学するって言い出した時は驚いたけどな。ぜってぇ合格しねぇと思ったのに、お前は合格した。お前んちの焼き鳥懐かしいなぁ。みんなでよく食べたよな」
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