獅子に戯れる兎のように
 赤点……?
 焼き鳥……!?

「陽はてっきり店を継ぐと思ってたよ。お袋さんが怪我をしたことと、親父さんが店を閉めたことが何か関係あんのか?あの頃のお前はピリピリしていて、俺ら何も聞けなかったからな」

「昔のことはもう忘れちまった。今更何も話すことなんてねぇよ」

「そうだな。陽が東京に戻ってくれて、俺らも嬉しいよ。また一緒につるもうぜ」

「威《たけし》、お前もそろそろ落ち着いけよ」

「お前のために俺達仕事サボッたんだぜ。お前が日曜日は休めねぇって言うから。それとも大卒のリーマンになると、俺達の人格全否定すんのか?」

「あはは、そんなんじゃねぇよ。集まるなら夜でもよかったのに。それに、和也《かずや》もいつまでもニートしてる歳じゃねぇだろ。真面目に就活しろよな」

「ちぇっ、久しぶりに逢ったのに説教かよ。もっとビシビシ甚振《いたぶ》ってぇ」

「お前はドMか」

 ゲラゲラと笑ってる男達。そこにいるのは私が知っている日向陽。

 でも、乱暴な口調は……
 同じ職場の日向とは異なる。

 彼らは公園に足を踏み入れた。数メートル先に設置してある自販機でジュースや珈琲を購入し、煙草を吸い始めた。

 私は立ち上がることも出来ず、俯いたままビニール袋で顔を隠す。

 あの高校生だった日向陽が、同じ職場の日向陽なのかちゃんとこの目で確かめたいという衝動にかられたが、その勇気はない。

 コツンと靴の先に何かがあたり、視線を落とすとそれは小さな幼児用のボールだった。

 パタパタと子供の足音がする。その音と重なるように大人の足音も近付いてくる。

 それは子供の保護者に違いない。

「お姉ちゃんボール取って」

 子供の声に顔を隠したまま足元のボールに手を伸ばす。と、同時に誰かの手もボールを掴んだ。

 それはゴツゴツとした男性の手だった。
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