獅子に戯れる兎のように
 高校生だった日向と逢ったのは、家に訪問した2回と、小暮の働いていたコンビニ。

 わずか3回。日向が私を覚えていないのなら好都合だ。

 こちらに非はない。寧ろ、私にセクハラをしたのは日向の方なのだから。

 小暮との過去を日向は察している。
 小暮に怯えたように、日向に怯える必要はない。

 目の前で起こった状況を頭の中で整理し、肩の力を抜いて、残りのサンドイッチを口に押し込む。

 日向の家庭に何かが起き、怪我をした母親が亡くなり、彼は東京を離れ大阪に引っ越し大学に進学した。でもこれ以上詮索することはもう止めよう。

 私もあの時のことは、二度と思い出したくない苦い過去。彼が忘れているのに、無理に思い出させる必要はない。

 ◇

 ――午後一時、新宿のカフェで美空と逢う。

「あー、お腹空いた。柚葉もお昼まだだよね?」

「ごめん、簡単にすませた。気にしないで、何か食べて」

「やだ。先に食べちゃったの?信じらんない。店員さん、私ミックスサンドと珈琲。柚葉は?」

「私は抹茶オレ下さい」

 美空のオーダーに思わず笑みが漏れる。サンドイッチと珈琲で良かったなら、私が買ってきてあげたのに。

 性格は全然違うけど、食の好みだけは気が合う。

「やだ、何笑ってんの?」

「別に」

「そうだ。今日、陽乃からLINE入ってたでしょ。陽乃が休日に暇してるなんて、珍しいよね」

「そうだね。毎週婚活パーティーか、誰かとデートだもの。何処で待ち合わせしたの?」

「午後七時に新宿のマリオリッチに来て欲しいって。マリオリッチって何するとこ?カラオケかな?それともバー?」

「マリオリッチ?キングパーフェクトホテルにあるバイキングレストランだよ。ホテルの広間を貸し切ってパーティーも出来るんだよ。ていうか、美空知らずに約束したの?」
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